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秋田家庭裁判所大館支部 昭和40年(少)174号 決定 1965年8月11日

少年 H・H(昭二五・八・一四生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

一、罪となるべき事実

少年は、八歳の頃から精神の発達が十分でなく、精神魯鈍の状態にあるものであるが、日頃から父母に無断で夜中住所地の○○町内をはいかいし、またマッチ等で火遊びする癖があり

(一)  昭和四〇年六月○○日午後一〇時三五分頃、秋田県鹿角郡○○町字○○○×××番地の○、○○田○治方裏の作業小屋北側の出入口において、とつさに同小屋に火をつけていたずらしようと考え、附近の住家に延焼する危険も認識しながらあえて火薬、油、ローソク等を円筒形状に紙等で包んだ一五糎程度の手製ロケットを所持していたので、これに所携のマッチをもつて点火して同小屋東側の中央部附近に投げこみ、同所にあつた新聞紙、炭俵等に引火させて、同小屋および附近の○原○良所有の住家ほか三棟に燃え拡つてこれを焼燬し、

(二)  昭和四〇年七月○○日午後一一時三〇分頃自己が通学する秋田県鹿角郡○○町字△△×番地所在○○第○中学校に赴き、自己の学習する東側校舎の特殊学級教室へその天窓から入り、同教室の東南角に附属する製繩機置室に行き、知能程度の低い特殊学級に学ぶより普通学級に入りたいかねてからの希望もあつて、同教室に火をつけようと考えて、所携のマッチで同所に散乱していた繩藁屑に点火したため、同所の床に燃え移り、同校東側校舎、音楽教室の全部、北側校舎の大半を焼燬し

たものである。

二、適用法令

各刑法第一〇八条

三、処分理由

少年の家庭は、父母の外妹二人の五人家族で、父母は昭和三〇年末ともに製材所に共稼ぎをしていて、経済的には安定している反面、少年ら子供達に接触する時間が少くなり家庭教育上好ましくない状態が続けられてきた。もつとも最近母は勤務先の了解をえて早く帰宅するようにしていた。少年は、知能が低く小学校時代から学習についてゆけず、成績は劣等で、中学校ではその能力に応じた教育を行う特殊学級に入つていたが、同学級での生徒数は少く、その中での交友関係にある者なく、また普通学級の生徒からは、少年の非常に背の高い容姿と鈍重な動作、言語のやや不明確を嘲笑的にみられていたようで、もちろん相手にしてくれる者もなく、一方家庭でも妹らと能力の差もあつて常に疎外され、孤立状態であつた。そのため、少年の対象は、動物の飼育や草花の栽培に向けられていたが、中学二年頃からその反動がみられ、母親や女の先生の注意を聞かず、反抗する態度に出て、学校内で女生徒にいたずらしたり粗暴で不良行為も顕著になつてきていた。しかもこの頃から夜間自転車で○○町の街中に出廻るようになり、その上前記の万年筆程度の大きさのロケットと称している発火物を製作し、人気のないところで携帯せるマッチで点火して危険な遊びをするようになつた。

少年の精神年齢は八歳程度魯鈍級の精神薄弱であるが、調査、審判時には発問の意味を了解してこれに対応する返答をなし、その供述や態度から是非善悪の弁別能力は、殆ど欠くところがないのでないかと考えられる。性格は気分易変性がつよく、自己中心的、非協調的で虚言も多く、対人不信感が根強いため、これが主として家族に対して向けられ反抗的に出る傾向がつよい。もつとも精神分裂病の症状は認められていない。

以上のほか少年の生活史、家庭学校関係、性向について、少年調査票、鑑別結果通知書の記載をここに引用する。

本件非行は、少年の性格、家庭学校での環境から反抗的になつてゆき、突然に衝動的に行われたもので計画的なものではない。その動機も少年自身が説明できず、神様につかれたなどと言うのみであつて、はつきりとした理由もなく、ただこれまでの欲求不満と右ロケットの製作という少年にとつては新型の遊び道具で火遊びという孤独な行動に興味をもつたことが重なつて前記認定の如き動機で非行を行つたものと推認される。非行の結果は、重大で損害も甚大であるが、少年は反省するところ少く、その重大さの認識は余りないのでその危険性は将来も懸念される。しかし家庭では少年が普通児でないことからその教育や処遇について深く反省し、保護意欲のつよいこと、少年の環境によつては将来社会に適応させうる好ましい適性も多いことから、施設に収容して指導するならばその教育も可能と信ずる。ただ、少年は精神病でないが、精神薄弱の点を考慮し、通常の少年院では再び疎外されて孤立状態になるおそれがあるので、この際医療少年院に送致することが適当と思料する。よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 藤本清)

少年調査票<省略>

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